東京高等裁判所 昭和27年(う)3278号 判決 1952年11月08日
控訴人 被告人 二宮秀太郎
弁護人 竹沢卯一
検察官 司波実関与
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役六月及び罰金一万円に処する。
但し此の裁判確定の日から五年間右懲役刑の執行を猶予する。
右罰金を完納することができないときは金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
押収に係る昭和二七年証第八五三号一乃至九はこれを没収する。
原審において生じた訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
本件控訴の趣意は、末尾添附の弁護人竹沢卯一作成名義の控訴趣意書と題する書面記載のとおりであつて、これに対して当裁判所は次のとおり判断する。
弁護人控訴趣意第一、について。
然し乍ら、覚せい剤取締法に所謂覚せい剤の製造と謂うのは、同法第一条第一項に定義するところの覚せい剤、すなわちフエニルアミノプロパン、フエニルメチルアミノプロパン及び各その塩類並びにこれらのいずれかを含有する製剤を作出することを謂うのであつて、既存の覚せい剤たる粉末製剤と雖も、これに他の物質を加え溶解、濾過 アンプル充填、煮沸等の操作をして、使用方法の異なる新なる注射液たる製剤を作出するが如きは、その覚せい剤としての性能に変化を来すや否を問わず固よりこれを覚せい剤の製造と謂わなければならない。本件につき見るに、記録上証拠に現われている全事実に徴すれば、被告人は朝鮮人の小川某より粉末たるフエニルメチルアミノプロパン一〇瓦を買受け溶器、蒸溜水、濾紙を使用してこれを溶解濾過した上アンプルに充填溶閉して、原判示第一事実摘示のとおりの覚せい剤一立方糎アンプル約一万三千本を作出したものであること洵に明らかであるから、これを以て覚せい剤の製造と認むべきは当然であつて、原判決には所論の如き事実の誤認又は法令適用の誤りはない。論旨はその理由がない。
(その他の判決理由は省略する。)
(裁判長判事 中野保雄 判事 尾後貫荘太郎 判事 渡辺好人)
控訴趣意
第一、原判決には事実の誤認がある。
被告人は鮮人小川某から入手した覚せい剤フエニルメチルアミノプロパン塩酸塩の白粉末をそのまま飲むよりも速効のある注射液にするため右粉末を蒸溜水に溶かして一cc入アンプルに加工したのであるがフエニルメチルアミノプロパン塩酸塩そのものの性能には何等の化学的変化は来たさない。恰も砂糖を水に溶かし硝子管に入れたと同じで形態の変化はあつても性能に化学的の変化はないからこれをしもフエニルメチルアミノプロパンを製造したと認めるのは事実の誤りである。
右事実の誤認により判決に影響を及ぼすべき法令の適用を誤つた違法がある。
(その他の控訴趣意は省略する。)